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多分駄文日記 | テイルズウィーバー

TalesWeaver テイルズウィーバー ドゥルネンサ、通称$鯖に生息するミラ 壱無知 來智の贈る生産性のない、 無駄駄文なブログ
楽しい時間、苦しい時間
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『楽しい時間、苦しい時間』
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頭が痛い。頭が重い。頭が熱い。


まるで砂漠で顔だけ出して埋まっているような、朦朧とする圧迫と
それでいて埋まり身動きが取れないことへの奥底の寒気が渾然一体
となって、頭を、顔を、喉を、腕を、背中を、足を、全身を縦横無
尽に駆け巡り、ごちゃ混ぜにされている気分。
動くことが億劫であるし、動くことが痛覚を刺激するし、動くこと
自体の気力をシャットアウトしているように思う。
目の前には灰色の石壁しか見えないが、視点があちらこちらに動く
ことはなく、一点凝視、壁の細かい凹凸を意味もなく見つめ続けて
いる。視界から飛び込んでくる情報は脳に処理される手前で、捨て
られているのだろう。何の感想も沸かない。
身体の筋肉という筋肉が硬直して、さぞかし、引き締まった魅力あ
る弾力となっているであろうが、当の私にとっては、自分の身体で
はないような感覚と、それ故の自由の利かない違和感が原因の苛立
ちとで、いっそなら腕と足を逆方向へ引っ張り伸ばして欲しいくら
いの衝動に駆られる。
頭痛には波があるといっても、中規模やらビッグウェーブが断続的
にやってきて、休まること、手加減をするということをまったくし
ない。
どう考えても、平熱を飛び越えた全身発火。緊張し、怒り震えてい
るときの比ではないほど熱を帯び、一体何度に達しているのか、知
るのも恐ろしい。
ただ、こんな町の片隅で、どことも判別を許さない家の壁に、身体
を預けて、へたり込んでいるわけには行かない。
あとどれくらいで自分の家なのであろうか。
あとどれくらい歩かないといけないのだろうか。
あとどれくらいこんな辛い時間を味わわないといけないのだろうか。
辛い、辛い、辛い、辛い、辛い。
絞り終わったレモンに滲む残り僅かな期待を振り絞るように、残る
気力を立ち上がり、歩くことに費やす。
頭をあげると、石を入れられてシャイクされているような耐え難い
苦痛が押し寄せるし、腕も足も電池という供給源を失ったような、
鈍さですこぶる動きづらい。
それでも、何とか立ち上がる。
真っ暗な道がまるで、私の現状と行き先を暗示しているように広が
り、どこまでも伸びている底知れない未知を見せられているようで
恐怖しているのは、普段よりも何段も弱気になっているからだろう……

一歩ずつ、一歩ずつ、実感の無い足で地面を踏んでいく。
早く着いて欲しいのに、速度は反比例して加速どころか、減速して
いくばかり。
ここで倒れこんだ方が楽なんじゃないか?
そんな思考回路がフリップフロップのように巡り巡るが、幾ばくか
の意志で持ち堪える。
歩いて歩いて歩いて歩き続けた。
普段なら数分で着くだろう距離を数時間もかけて歩いたような錯覚
に襲われる。
時間の体感速度は感情によって密接に大きく揺れ動く。
どうして楽しい時間を長く感じさせないんだろう。
どうして辛い時間を短く感じさせないんだろう。
そんな疑問が頭をよぎり、答えの浮かばない脳力と脱力に疑問は沈
み込んでしまう。

苦しい時間を踏みしめてようやく家に辿り着いた。

覚束無い手で鍵を回し、扉を開けると真っ暗で途方もない闇が、
ぬっと私を包み込み飲み込んだ。
芯からくる寒気に鳥肌が立つ。現実を惑わす不確かで不明瞭な暗さ
が、元から失われた正常な判断力を有無を言わさず根こそぎ奪う。
暗く、陰湿で、重圧な息苦しさ、幽暗に歪んだ漆黒、不安、恐怖、
軋み折れる情緒、ぼやけ、うつろう視界、闇、闇、闇……

そこで私の意識はもがくのをやめ、崩れ埋まった。


 *

まどろみ、虚ろに、まるで頭の中にお湯をこれでもかと一杯に詰め
込まれたような、不快な違和感の中、重たく閉ざされた目蓋をゆっ
くりと開いていく。

そこには依然として、闇が広がっていた。何も変わらない闇が。
どこまでも深く引きずり込もうと手を差し伸べている。
誰もいない部屋、押し込むようにやって来る嫌悪感と倦怠感。
いつもなら気にも留めないことが、大きく強烈に邪魔をする。
孤独が気持ちを支配する。

苦しい、辛い、痛い、熱い、重い…………寂しい……

頭の中を廻る。ぐるぐる、ぐるぐる、ぐるぐる、ぐるぐると。

 *

いつの間にか閉じた瞳を再度開けたとき、視界に入ったものは、し
な垂れたようにポツンと目の前に落ちているタオル、その向こう側
に小さな手、そして蒼い髪が無造作にかかった小さな顔だった。

「お姉さん、大丈夫!?」

蒼い髪の女の子の清涼でありながら切迫した声が耳に届く。

「大丈夫…………」

そう口をついて出てしまったが、本当のところは頭痛、熱は多少和
らいでいるかもしれないが、微々たるもので、回復してるとはお世
辞にもいえない状況に変化はなかった。

「そっか。良かった。でもビックリしちゃったよ!ゴハン作ろうと
思って来て見たら、お姉さんが倒れてるんだもん!」

「・・・・・・」

「お姉さん……?本当に大丈夫なの?」

心配そうに覗き込む女の子――ちびが顔を近づけてくる。
そして、急に思い出し、閃いたようにパチンっと手を叩いて声をあ
げる。

「そうだっ!お姉さん!ゴハン作ったんだ!風邪とかひいた時は、
がっつりと食べたほうがいいんだよ~。栄養を摂って、早く治るよ
うに、早く元気になるように、いっぱいいっぱい食べたほうがいい
んだよ!」

「―――いらない」

ちびが居たことに動揺しているのだろうか、弱い自分を見せたくな
いのだろうか、素っ気無い言葉が勝手に吐き出される。

「食べなきゃダメだよ!絶対絶対早く治るんだからっ。食べなきゃ」

「…………」

「ね?食べよ?いろいろ作ったんだ。豚肉の野菜炒めでしょー、
オニオンスープでしょー、チーズふんだんサラダでしょー、デザー
トにイチゴもあるんだよ!」

「…………」

テーブルの上に、並べられた料理の数々が見受けられるも、食欲は
まるでなかった。食べたいなんてまるっきり思わない。
無理してまで食べたくないし、いらないものはいらない。

「……お姉さん?料理温めなおそっか?」

「…………」

無視する。
応答することすら面倒で仕方がなかった。
また頭痛がしてくる。何故かイライラしてくる。
まだ何か尋ねてきているが、完全にシャットアウトして、無視し続
けた。
熱の上昇が加速度あげて襲ってくる。頭が割れるように痛い。
苦しい。辛い。他に何も考えられない!

 *

その後も時々目が覚めたけど、うずくまるよう丸まって、腕に顔を
突っ伏したまま耐え続けた。
治らないことへの不安、何故苦しまなきゃいけないのかといった理
不尽な怒り、自分の身体の自然治癒にありたっけの念を送って、た
だただ耐える。
肺への圧迫が正常な呼吸を殺し、鼻は詰まり、息苦しさが眠りを妨
げ、悶えることしか出来ずに、時間だけが過ぎていく。
チラリとテーブルを見ると、全てが片付けられ、もうすでにそこに
は何もなかった。

 *

どれだけの時間が経ったのかは定かではなかったが、辺りは薄暗く、
空気も冷たいものであり、身体中が汗だくで冷たく気持ち悪い湿り
気が全身から漂ってくる。
近くにタオルが転がっていたので手にとって見ると、拭くどころか
びっしょりと濡れていて使えそうになかった。
熱は引いているように思えた。
あれほどガンガンに打ち鳴らしていた頭痛も止んでいる。
開放感と安堵感に包まれ、私は一度大きく伸びをした。
凝り固まって反応の鈍った筋肉一つ一つが関節から鳴る軽快な破裂
音とともに解きほぐされて行く。
ダルさや違和感は当然のように残っているが、段違いに安定してい
る。
静かに錆付いた身体を労わりながら、動き、バネを確認するように、
上半身を起こす。

――大丈夫。動けそう。

どうしても水分が欲しくなってきて、立ち上がり、水道へ赴くその
途中、ソファでぐっすりと眠りこけている蒼い髪の少女を見つけた。

――ちび。

いつからここに居たんだろう。どのくらいの時間ここに居たんだろ
う。傍らにページの折り曲がった状態で、魔術書が無造作に無作為
に捨て置かれている。おもむろに手にとって見ると、発熱時や内的
な身体異常に効果的な魔術、術名キュアについて書かれたページが
見開きで載っていた。
この子が魔術書を見ているところなんて見たことがなかった。

―――私のために?

ふと、テーブルに目線を移すと、そこには雑炊が置かれており、
メモが添えられていて、
『温めて、食べてね。早く元気になってね』
っと可愛らしい字で書かれているのが見て取れた。

突如搾取されていた理性が冷静とともに戻ってきて、思い出す。
彼女に対して、素っ気無い態度をとり、邪険に扱ったことを。
うるさいとさえ思った自分の卑劣で許しがたい感情を。
冷静な判断が出来なくなっていた?
ちびは私のことだけを考えてくれていた。
心配をしてくれていた。
苦しい思いを癒そうとしてくれた。
そんなことには目も触れず、ただ苦しく辛いあの瞬間、自分のこと
だけしか考えられず、拒絶してしまい、素直と程遠い気持ちで耐え
ているだけだったことで、ちびを傷つけたに違いなかった。
それでもちびは私のため魔術を使い、料理を作ってくれている。
風邪が治ることを心から願ってくれている。
胸が熱くなる。発熱からくるものではなかった。
熱く、込み上げる気持ちが、駆け巡り、目頭さえも熱くさせた。
張り詰めていた気が針でさされたように破裂して霧散した。
弱った心に見合わず強がった自分の愚かさと、ちびの優しさ、想い
に、ただただ涙が流れた。

 *

白く柔らかい湯気が立ち上り、温かく映える白米を見事に演出し、
梅のほのかで芳醇な香りが、唾液を生成し、食欲をそそる。
その周りには、艶やかな緑彩るホウレン草と菜の花のお浸しや、
こんがり焼き目に香ばしい匂いの鮭、零れ出さんばかりに具沢山な
味噌汁など、栄養あり消化にもよい料理がずらりと並んでいる。
目の前の雑炊にレンゲを沈ませて掬い、鼻先に触れる熱い湯気に
恐る恐る口に運びいれると、予想以上の熱さに舌をまるめ、口の中
で、転がすように、体温との同調を僅かに待って飲み込むと、熱を
帯びたまま喉を通過して、気持ち良い流れを感じ、同時に溜飲も下
がる。

「おいしい?」

湯気の向こう側、テーブルに肘をつき、あごを手に乗せ、大きな瞳
、可愛い笑顔で私に尋ねるちび。
私は率直な感想を洩らす。

「―――美味しい。本当に、美味しいよ」

実際、私は雑炊が苦手だった。しかし、食べてみると、喉越しの良
さ、そしてお米の際立つような甘さが非常に美味しく思えた。

「良かった!他のも食べて!」

柔和が増したちびは満足そうに料理の盛られた皿を私の方へ押した。

どれも美味しかった。ゴハンがこんなにも美味しいものだったなん
て、今更ながら、当たり前だから見過ごし、見逃し、感覚に慣れて
忘れていた料理への感動を、晴れやかに思い出させてくれた。


楽しく素晴らしく小さな感動の詰まった食事の時間があっと言う間
に終わり、あの苦しく永遠とも思えるほど長く辛かった時間との対
比で、帰り道で感じた疑問が再度浮き上がってきた。

「……どうして楽しい時間を長く感じさせないんだろう。
どうして……辛い時間を短く感じさせないんだろう」

疑念が声となって呟きに変わっていた。
それを聞いたちびは、何事もなく当たり前といったようにあっさり
と答える。

「楽しいが短いのは、思い出にいっぱいいっぱい詰め込められるよ
うにするため。
そして苦しいが長いのは思い出に入りきらないようにするためだよ」

「えっ、何それ……」

「そういうこと。うん。そういうこと」

笑顔で満足気に首をたてにふるちび。
論理的な理屈や思考からは程遠い突っ込みどころ満載なちびの答え。
それでも、どこか納得したくなる不思議な答え。

「そっか。それ、いいね」

二人で笑った。楽しくも短い充実した時間、だから鮮烈に、強く、
思い出に残る。
そんな時間を今も、そしてこれからも沢山、思い出に入りきらなく
なるくらい、ギュウギュウに詰め込みたい、そう思った。


                         おしまい。
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2007/03/22(木) 17:04:11 | 短編小説 | Trackback(-) | Comment(-)
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